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ラ・カンパネラ【PSYCHO-PASS】

第35章 過去編:名前のない怪物


大切なものは、自分の手元には置かない。
これが、佐々山の流儀だ。
幼児期に買って貰った飛行機の玩具は、大切に持ち歩いているうちに鞄の中でその羽が折れてしまったし、生涯の相棒にしようと拾って来た子猫は、触り過ぎたストレスで三日で死んだ。自分には何かを大切にするという才能が無い、佐々山は幼くしてそれを悟った。それからは、自分が少しでも心惹かれるものには距離を持って接するようになった。

「それで、慎也にはあんなに冷たいの?」

廃棄区画を歩きながら、横の泉が問う。
佐々山は僅かに瞠目した。

「俺が?狡噛を?大切にしてるって?有り得ねぇよ、日向チャン。」

鼻で笑った佐々山に、泉は楽しそうに言う。

「そう?だって私には突っかからないのに、慎也には突っかかるじゃない?」
「そりゃ性格の問題デショ?それに俺は日向チャンのコト、大好きだしぃ?」
「はいはい。ドーモ。」

全くどうでも良さそうにあしらわれ、佐々山はそれ以上は何も言わなかった。

――こう言うのが良い。

社会から隔離され激しい制限を受ける執行官と言う立場は、佐々山自身を大切なものたちから遠ざけてくれる。
なんという、優しい牢獄。揺りかごに似た、棺桶。

「日向チャンは、何で監視官になったわけ?」

この問いが彼女に取ってタブーだと言うのは知っていた。
だからこそ佐々山は今まで一度たりとも聞いた事は無かったし、詮索した事も無かった。
だがこの廃棄区画のこの無法地帯にいるからだろうか。
全てがこの曖昧な空間に呑まれた気分になってしまい、確固たる理由が欲しかった。
何でも良かったのだ。何故、監視官になったのか。何故、狡噛と付き合っているのか。何でも良かったのに、佐々山は何故かそれを問うた。

「――過去を取り戻す為に。」

少しだけ黙っていた泉は、ゆっくりと口を開いた。

「過去?」
「そう。私ね、10歳までの記憶がないのよ。両親が殺されたショックで無くなったんだと思う。」
「あ、悪ィ。」

聞いてはいけないと知っていたが、内容に佐々山は素直に謝る。

「良いのよ。――佐々山くんは?なんで執行官をやっているの?」

その質問に、佐々山は上手く答える事が出来なかった。
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