第35章 過去編:名前のない怪物
藤間の視線を振り切るように部屋を出れば、丁度外にいた青柳と出くわす。
「あ、いたいた。遅いわよ、日向監視官。理事長に校内の捜索許可を貰ったわ。手分けして探しましょう。」
「――璃彩。アイツ、黒だわ。」
ボソリと呟いた泉に、青柳の目が鋭くなる。
「それは何か証拠を掴んでのこと?」
「違うわ。女の勘と刑事の勘。どちらもそうだって言ってる。」
「根拠の無い発言をしない泉の言葉だもの。間違いないんでしょうね。OK!証拠を探しましょう。」
青柳の言葉に、泉は頭を振って強引に気持ちを振り切る。
今無性に慎也に抱き締めて欲しかった。
そこまで考えてふと自嘲してしまう。
「泉?」
突然笑い出した泉に、青柳は不思議そうに首を傾げる。
「何でも無いわ。私も弱くなったものねと思って。」
「弱い?泉が?」
「そう。だって今無性に慎也に抱き締めて欲しいと思ってるもの。」
急に照れる事もなく言われて、青柳は一瞬呆気に取られる。
「――本当、アンタ達ってお似合いよ。」
「日向泉――、か。」
美術室の窓から、藤間は中庭を歩く泉を見ながら呟いた。
久し振りに面白い人間を見つけた気がする。
きっと『彼』も彼女を気に入るのではないだろうか。
「あの――、藤間先生。写真を撮って来たんです。」
そこまで考えて瞳子の声に、現実に引き戻される。
この学園の女性とはつまらない。
外の世界に憧れつつも飛び出す勇気さえ持てずに、自分を悲劇のヒロインとして嘆いているのだから。
そう言えば――、先程の彼女は卒業生だと言っていなかったか。
「――面白い。」
「え?」
自分に向けられた言葉だと思ったのだろう。瞳子が反応をした。
「いや――。君の写真はつまらないな。」
藤間は冷たくそう告げれば、部屋を後にした。