第4章 誰も知らないあなたの仮面
――有難う、と皮肉を云った。
「青い春だね、と君が笑う。惨めだけれど、嫌いじゃないよ、と。」
「へ~ぇ?ネットの人気者ってだけでガッポリ稼げるならそりゃ外に出て働くのもバカらしくなるわな。」
それから間もなく、排水溝から死体の断片が見付かるのだった。
「開いたよ~ん。」
パソコンを弄っていた縢の言葉に、慎也と泉が覗き込む。
「葉山がネットで使っていたアバターは、コイツか。」
「アフィリエイトで食って行けるなら相当な人気者だったんでしょうねぇ。」
二人の後ろから覗き込んだ朱が、画面を見て声を上げる。
「タリスマン――。」
「何?」
「私、今朝このアバターと会ってます。」
それが事件の始まりだった。
「そんな訳でウチの可愛い鑑識ドローンが頑張った結果、葉山さん家の排水溝からはめでたく遺体の断片が見付かりました。はい、拍手!」
志恩の言葉には反応せず、泉が呟く。
「なのに誰かがネット上で葉山のコミュフィールドを運営し、葉山のアバターでうろつき回ってると。」
「ふふ、正解。」
「怪談だね。成仏出来ずにネットを彷徨う幽霊、ってか?」
縢が冗談半分に言えば、泉も頷く。
「誰かが成り代わってるのか?」
征陸が怪訝そうに言えば、志恩は首を傾げた。
「どうだかねぇ。葉山は失踪する以前からふざけ半分に偽装IPを使ってたみたい。」
「アクセスルートの追跡は?」
慎也の問いに、志恩はタブレットを弄りながら言う。
「試してみても良いけどさぁ。なぁんか明らかに胡散臭いプロキシサーバーを経由してるからねぇ。まぁ間違いなく逆探知対策は講じてるだろうね。下手に追跡掛けると先方にも勘付かれるよ?でもさぁ少なくとも葉山のアバターを使ってるやつは、自分が怪しまれているなんてまだ気付いてないはず。それってチャンスなんじゃない?」
志恩は煙草に火を点けながら言う。
「確かに。ある意味今回の容疑者は逃げも隠れもせずに、目の前をうろついてる訳だしね。」
泉の言葉に同調するように、慎也も言う。
「上手く誘導すれば正体を掴む手掛かりになるようなボロを出すかも知れない。」
「――よし。ヤツのアバターに接触してみよう。」
宜野座の提案に、征陸が言う。