第4章 誰も知らないあなたの仮面
――嘘吐きは、誰?
「苦しんで、苦しみ抜いて身悶えして。その仕草が発狂しそうに愛おしいから。」
「――狡噛の事が聞きたいのかい?それとも泉ちゃん?」
絵画を嗜む征陸の元を、朱は訪れていた。
「分かりますか?」
「アンタ、アイツらと妙に縁があるからな。」
「あの二人とどう接して良いのか未だに分からないんです。日向監視官については、優しいけど時々怖いって言うか。」
朱の言葉に、征陸は苦笑する。
「泉ちゃんは絶対唯一が決まってるからなぁ。そこを傷付けられたりすると怖くなっちまう。けど普段は性格も良い美人さんだぜ?」
「絶対唯一?」
「分かってんだろ?あの子の絶対唯一は『狡噛慎也』だ。」
そう言われて、朱は顔を俯ける。
「――もっと理解しろと言う人もいますし、同じ人間だと思うなと言われた事もあります。」
「ハッ。そっちは宜野座監視官の台詞だな。アイツらしい。犬は犬、飼い主は飼い主。その一線を踏み越えない関係それがお嬢ちゃんに取って一番だと思うね。」
「――でも日向さんは。」
思わず声を荒げた朱に、征陸はどこか哀しそうに笑う。
「ひとつ年寄りの忠告をしといてやる。泉ちゃんとアンタは確かに同じ監視官と言う立場だが、同じと思わない方が良い。泉ちゃんには揺るがない信念と覚悟があって、犬と飼い主の一線を越えてる。だからそれに関しては宜野座も何も言わない。」
その時、呼び出しが掛かり話は打ち切りになった。
「――で?一体何事なの?」
不機嫌そうに泉が言う。
「ホームセキュリティの一斉点検でこの部屋のトイレが2ヶ月前から故障していた事が分かった。なのに住人からの苦情が一切無い。それで管理会社が不審に思い、通報して来たんだそうだ。」
宜野座の説明を聞きながら、泉は住人の情報を読み上げる。
「葉山公彦、32歳、独身、無職。」
「――無職っているんですか、今時そんな人。」
「口座を洗ってみたがコイツはアフィリエイトサービスプロバイダーから多額の報酬を受け取っている。暮らしには何一つ不自由無かっただろう。」
宜野座の言葉に、縢が皮肉そうに言う。