第4章 誰も知らないあなたの仮面
――全ては決められているのか。
「ストロベリーミルクティーの甘ったるい憂鬱。」
アバターがふよふよと浮かぶのはコミュフィールドと呼ばれる仮想空間。
「ここタリスマンサルーンで語られる物語は全て人事。良いですかな?レモネードキャンディー?」
「――OK!私の友達が今凄く困ってて、だからその子の事を話したいの。タリスマン。」
「宜しいですとも!それでは聞かせて下さい。貴方のお友達がどのような悩みを抱えているのか。」
タリスマンがそう言った瞬間、周りのアバター達からタリスマンコールが起こる。
「その子はね、卒業してすぐ大変な仕事に就いて責任重大で、でもそれは良いの!その子も後悔はしていないはず。」
「なるほど!」
「困っているのは人間関係なのかな。その職場で部下って言うか、先輩って言うか。ちょっと説明の難しい同僚がいてね。仕事をやって行く上で彼の事を避けては通れないんだけど――。」
レモネードキャンディーが言葉に詰まれば、タリスマンが水晶に手を翳して問う。
「苦手なタイプ、なのですか?」
「その人やる事がめちゃくちゃで。でもね、正しい事を言ってるなって思う時もあるの。だから信用出来るかなって思ったりもしたんだけど――。」
「君のお友達はその同僚に幻想を見ていたのかも知れませんね。」
タリスマンの言葉に、ハッとしたように顔を上げる。
「幻想、なのかな?」
「まずは先入観を排して、ありのままの彼と向き合ってみる必要があるんじゃないかな?お友達にはそうアドバイスしてあげたらどうだろう?」
そう結論付けたタリスマンに、レモネードキャンディーは笑った。
「――うん。」
「迷える人々の悩ましき日々をこのタリスマンめにお聞かせ下さい!答えは常に貴方の物語の中に隠れています!」
大歓声の中、レモネードキャンディーこと常守朱はコミュフィールドを閉じた。
「ありのままの彼と向き合う、か。」
その頃、慎也は泉の機嫌を取るのに必死だった。
「泉。いい加減、機嫌直したらどうだ?」
「――私がなんで怒ってるか分かってる?」
「俺が常守監視官を利用したからじゃないのか?」
「違うわ。――これ以上、犯罪係数を上げて欲しくないのよ。」
そっと頬を撫でた手は、力強く握り返された。
恋人達の安息はまだ遠い。