第30章 ステイルメイト
――世界の果てであいましょう。
「泣きじゃくって、君は何が欲しかったって云うんだい?」
『――腹を割って話し合いましょう。この会見の目的は、貴方との協力関係を構築する事です。』
「――協力ですって?」
今更このシステムは何を求める気なのだと、泉は訝しそうに問う。
『刑事課一係は目下の所、危機的状況に在ります。狡噛慎也の執行官降格と佐々山光留の死亡。それらによりチームは機能不全の兆しを見せ始めている。新たな統率者が捜査の主導権を握らない限り、今後の社会秩序の維持に支障を来たすでしょう。』
「あんまり人間を舐めるんじゃないわよ。宜野座監視官がすぐに立て直すわ。」
その言葉に、シビュラは再び答える。
『――では言い方を変えましょう。公安局の中に我々の内通者が必要です。存在を隠蔽する為の協力者がいなければ、いずれシビュラシステムは危険に晒される。』
「それを私にさせようって言うの?」
『悪い話ではないはずです。そして日向泉。貴方は愚かでは無い。』
「良く言うわ。」
鼻で笑った泉だったが、シビュラの言いたい事は理解していた。
『日向泉。貴方もまた余計な葛藤に捕われて、本来発揮し得る潜在能力を発揮出来ていなかった。状況に対する理解の不足が貴方の判断力を鈍らせていたのです。そこで我々は特例的措置としてシビュラシステムの真実を貴方に開示しました。真相を教える事が貴方と言う人物にモチベーションを与える上で最善な方法と判断したからです。日向泉。貴方は今、何が一番正しい選択なのか既に理解しているはずです。』
その言葉に、嫌悪感を示す。
「私は――、罪を犯した人間は正当に裁かれるべきだと思っているだけよ。貴方達だって過去に法を犯したと言うのならそれ相応の償いをするべきだわ。」
『社会に対する我々の貢献は過去の被害に対する補償として充分に過ぎるものです。』
「都合が良いのね。」
『日向泉。この協力関係を貴方が受け入れるのであれば、我々は貴方に幾つかの保証を差し上げましょう。』
「言ってみなさいよ。」
取引を持ちかけて来るシビュラに、泉は挑戦するように言った。