第30章 ステイルメイト
――事実は小説より奇なり、と。
「ごめんねかあさん、せめてすぐにらくにしてあげるから。」
『――以上がシビュラシステム、即ち我々についての真相です。』
全てを否定する事が出来たのならば、どれだけ楽になれたのだろう。
「――こんな物の為に、両親は殺されたって言うの?」
泉が叫ぶ。
禾生は少し離れた場所で、泉を見ていた。
『その通りです。日向彰文、日向麗子。この両名は我々の一部となる事を拒んだ。その為、脅威と判断されました。』
泉が握っているドミネーターが静かに答える。
「ふざけないで!藤間幸三郎を裁けなかった役立たずのくせに!」
泉が叫べば、シビュラはそれを否定する事無く肯定した。
『その通り。シビュラシステムはサイコパスを解析出来ない免罪体質者の発生は、確率的に不可避です。如何に緻密で剣呑なシステムを構築しようと必ずそれを逸脱するイレギュラーは一定数で出現します。』
「――何が最高のシステムよ。聞いて呆れるわ!こんなものが人の生き死にを決めているなんて!」
『ただシステムを改善し複雑化するだけでは、永遠に完璧さは望めない。ならば機能ではなく、運用の仕方によって矛盾を解消するしかない。管理し切れないイレギュラーの出現を許容し共存出来る手段を講じる事でシステムは事実上の完璧さを獲得します。』
「――どう言う事?」
淡々と告げられる真実に、泉は段々と怒りを覚えて来る。
『システムを逸脱した者にはシステムの運営を委ねれば良い。これが最も合理的結論です。我々はかつて個別の人格と肉体を備えていた頃は、いずれもシビュラシステムの管理を逸脱した免罪体質者でした。中には藤間幸三郎より遥かに残忍な行為を行った固体も多数含まれています。』
「――じゃあ、シビュラって悪人の脳をかき集めた怪物がこの世界を仕切ってたって言うの?!」
目の前に広がる無数の脳を、泉は睨むように見つめる。