第30章 ステイルメイト
――神様、もう一度だけ。
「あと何回、と繰り返すように嘯き嘆いた。僕らの目覚められる時間、は」
雑賀教授の家を尋ねた日。
夜も更けた頃。慎也と泉を乗せたバイクは一軒の家の前にいた。
「ここがお前の家か?」
「えぇ。――随分と廃れたこと。」
泉が蔦の生えた柵を押せば、ギィィっと音を立てて開いた。
周りの家から少し離れた高台にその屋敷は在った。
「随分と豪邸だな。」
「――これでも一応大学教授の娘よ。」
「それもそうだな。」
慎也は笑いながら泉の後を追って中に入る。
泉が手探りで電気を点ければ、何十年もほったからかしにされていたはずなのに明かりが点いた。
「――どう言う事だ?」
「きっと義兄だわ。たまに戻って来てたのね。父の書斎にはあの人が好みそうな古書が大量にあるの。」
そう言いながら、泉はリビングのドアを開ける。
その場に立ち尽くす泉を、慎也は不審に思った。
「――泉?」
「ここで――。17年前、両親は殺されたのよ。」
「――泉。」
「大丈夫。もう泣かないって決めたのよ。あの日から。」
そう言いながら、泉はそっとしゃがんで手を合わせる。
慎也も横にしゃがめばそれに倣った。
「――慎也も弔ってくれるの?」
「当たり前だ。義両親になるんだからな。」
「ふふ。パパが生きてたら何て言ったかな。」
「さぁな。――娘さんを貰います。」
真剣な顔で言った慎也に、泉は哀しそうに笑った。
「――泉。お前の両親はシビュラの研究をしていたと言ったな?」
「えぇ。日向彰文はシビュラ発明家の一人よ。そして母の日向麗子は脳科学の研究者だった。」
「脳科学、だと?」
「つまり父と母が手を組んだ事によって、シビュラシステムは生まれたの。」
「発明と科学の融合、か。成程な。」
「でも二人が作りたかったのはこんな世界じゃなかった。ちゃんと人間の自由意志が在って、それでいて平和な世界。」
慎也は書斎に足を踏み入れれば、そこに散らばっていた資料を手に取った。