第29章 血の褒章
――君の言葉が、僕のすべて。
「泣いてるんですね、らしくない。君はもっとふてぶてしい顔の方がお似合いですよ。」
「槙島はこの国を潰す気でいる。今公安局が選べる選択肢は一つだけだ。電力を止めろ!それでこの国は救われる。」
苛立ったように慎也が言う。
「私は貴方達も救います。狡噛慎也を殺人犯にはさせないし、日向泉も死なせません。」
その言葉に、慎也は横の泉を見る。
慎也の視線を無視して、泉は慎也の無線を奪い取る。
「――なら、早い者勝ちね。GOOD LUCK.」
そう言えば、泉は無理やり無線を切った。
「――泉。」
「何してるの?早く行くわよ。朱ちゃんはあぁ言ってたけど伸元はバカじゃないわ。すぐに電力供給をストップさせるはずよ。」
矢継ぎ早にそう言えば、泉は歩き出そうとする。けれども慎也は行く手を塞ぐように泉の前に立ちはだかった。
「――何?」
「それはこちらの台詞だ。常守はお前も死なせないと言った。どう言う事だ?」
「知らないわ。彼女が勝手に言っただけよ。」
「――泉。こっちを見ろ。お前は嘘を吐く時、絶対に目を合わせないと知っていたか?」
顎を掴まれて視線を無理やり合わせて来る慎也に、泉は内心舌打ちをした。
やってくれたものだ、あのお嬢様は。
「――命を賭けた戦いよ。それぐらいの覚悟がいるでしょう?」
「冗談じゃない。俺はお前に命を賭けろと言った覚えは無い。そんなつもりならここに残れ。」
「嫌よ。ここまで来て置いて行くつもり?それに私を連れて行った方が槙島への切り札になるわよ。」
その言葉に、慎也は唇を噛む。
「――お前。槙島と一緒に死ぬつもりだったな?」
「――別に最初から自殺願望がある訳じゃないわ。必要があれば、私が片付けるつもりだっただけよ。」
その言葉に、カッとなった慎也の腕が上がる。
それを見た泉は静かに呟いた。
「殴る?良いわよ、それでも。それで許してくれるのなら。」
「――どこまで残酷な女なんだよ、お前は。」
そっと振り下ろされた腕は行き場を失う。
「――ごめんね、慎也。」
泉はそっと慎也に抱き付いた。