第29章 血の褒章
――惜しみなく、すべてを捧げましょう。
「ありがとうございました。貴方に出会えて、その手で、終われて。」
イエスは別の例えを持ち出して云われた。天の国は次のように例えられる。ある人が良い種を畑に蒔いた。人々が眠っている間に敵が来て、麦の中に毒麦を蒔いて行った。
「セキュリティは生きてる。他に入れそうな場所は?」
「慎也!あそこ見て!公安局のヘリよ。」
泉が指差した方向には、見慣れたヘリが飛んでいた。
「ほう?」
「伸元――、じゃないかもね。今回は朱ちゃんだわ。」
「何故、そう思う?」
慎也の問いに、泉は笑った。
「化けた女は怖いのよ?」
泉の言葉に、慎也は目を丸くした。
その頃、宜野座や朱がヘリから降りていた。
「クソッ!なんて広さだ。」
ヘリから降り立った宜野座が忌々しそうに呟く。
「北陸全域に配給する為の防御ウイルスを一括管理している工場ですからね。」
「これだけの規模の設備が完全無人化されたまま稼動してるなんてな。」
「――図体が大きい獲物程、狙いやすい。鯨も殺す程の毒針を使うとなれば尚更。槙島らしい戦術ですよ。」
その時、朱のデバイスが鳴る。
「多分、狡噛さんです。私達が着陸するのが見えたんでしょう。彼もすぐ近くにいます。――常守です。」
『思いのほか、早いお出ましだったな。』
「公安局を舐めないで下さい。貴方達だけが槙島を追い詰められる訳じゃ有りません。」
『フッ――。ヤツはもう施設内に入った。恐らく管巻がラボに残して行った機材を使い、ウカノミタマの調整に取り掛かっているはずだ。或いは――、もう終わらせているかも。』
その言葉に、朱は力強く言う。
「あの男の思い通りにはさせません。」
『だとしたら時間が無い。ヤツが弄ったウカノミタマを撒き散らす前に、ここの施設そのものを停止させるしかない。公安局の権限でこの施設の電力供給を遮断出来るはずだな?』
「その場合、センターの機能だけでなくセキュリティシステムも全滅です。貴方達の狙いはそれですね?私達を利用してセキュリティを解除させ、先回りして槙島を殺すつもりでしょう?――やらせませんよ、絶対に。」
「――強くなったわね、彼女。」
横で聞いていた泉は思わず笑った。