第29章 血の褒章
――静かな海に、沈む。
「怒れ憎め嘆け嫌え! 頼むから、突き放してくれ。」
「――それでも俺は、お前を見殺しにする気はない。」
「慎也?!――何をッッ、ンン!」
いきなり後頭部を掴まれたと同時に、慎也が深く口付けて来る。
泉はハッとして逃げようとするが、抵抗も空しく無理やりカプセルを飲まされた。
「――二度目なんて、最低!」
「言ってろ。――このままここで寝てろ。全てが終わったら迎えに来る。」
そっと自分の上着を敷けば、慎也は意識が朦朧としている泉を寝かせる。
「待って――、慎也。嫌――!」
手を伸ばすが、ぼやけた視界では彼の腕を掴めない。
やがて歪んで行く彼の唇がゆっくりと動いた。
「――愛してるよ、泉。」
それだけ言えば、慎也はその場を後にした。
泉は朦朧とする意識の中、地面に腕を付けば土を引っ掻く。
「――舐めないでよ!」
そのまま堕ちてしまいそうな意識をどうにか保てば、泉はポケットからナイフを取り出せば思い切り自分の太腿に突き立てた。
「――ッッぁぁ!いったぁぁぁ!」
痛みで意識が吹っ飛びそうになるのを堪えれば、どうにか視界が再びクリアに戻って来る。
「――全部終わったら絶対一回殴ってやる、あの男!」
泉は憎らしそうにそう呟けば、ナイフを抜いて立ち上がる。
簡単に止血をすれば、慎也の後を追ってラボの中へと入って行った。
「――厚生省で何かあったんですか?」
行動を共にしていた六合塚が、朱に問う。
「そんな風に見えますか?」
「今の貴方は誰よりも前向きなのに、誰よりも落ち込んでいる風に見えます。」
その問いに、朱の頭の中で色々な出来事がフラッシュバックする。
「――立ち止まっていても何一つ解決しない。今はただ進むしか無い。どんなに小さくても希望はある。それを諦めない限り、私は最後まで刑事のままでいられる。」
「新しい監視官がやって来た時、最初は甘そうなお嬢ちゃんだと思いました。こんな仕事は到底勤まらないって。泉と何もかもが違ったから。」
「うん――。そうだったかも。」
「でもあの時の印象は完全に間違っていた。今ならそう断言出来る。貴方になら命を預けられます、常守さん。」
六合塚のその言葉に、朱は何とも言えない気持ちになった。