第28章 正義の在処
――夢はまだ見ない。
「優しすぎますよ。こんな風にぶん殴ってくれる、なんてさ。」
『大昔はさ、自分の人生は自分で決めて、それに責任を持たなきゃならなかったんだとさ。ぞっとするよな。今じゃシビュラシステムがそいつの才能を読み取って、一番幸せになれる生き方を教えてくれるってのに。』
そうだね――、でも縢くん。それは幸せだけれどもとても重たい責任だったよね。
『幸せ』ってなんだろう。分からないよ。教えてよ、縢くん――!
『あたしなんてC判定しかもらえなかったのに。』
でもね、ゆき。A判定が貰えたからって、幸せになれる訳じゃないんだよ。それさえも私達は知らなかったけれど――。
シビュラシステムの真実を知った朱は、それを捨てる事が出来なかった。
シビュラの統制の元、保たれているこの現実を全て壊す事など出来なかったのだ。
「――笑っちゃう。」
自分にか、世界にか、それは朱にも分からない。
納得をするには多すぎた情報を呆然と受け止めた朱のデバイスが鳴り響く。
「――はい、常守です。」
『あ、朱ちゃん?日向です。』
「――日向さん?!』
突然の泉からの電話に、朱は思わず声を荒げる。
『久し振り。ごめんね、勝手ばかりして。』
「本当、ですよ――!皆がどれだけ心配したと――!今、どこですか?狡噛さんは一緒なんですよね?』
セーブしていた感情があふれ出して行く。朱は溢れて行く涙を止める事が出来なかった。
『慎也は一緒よ。ごめんね、朱ちゃん。大変な時に側で助けてあげられなくてごめんなさい。』
泉の声が酷く心地良く身体の中に浸透して行く。朱は最初の頃、何故か泉を怖いと思った事があった。
その理由が分かった気がした。
この人には自分で気付かない感情の裏側まで読み取られてしまうからだ。けれども今は、逆にそれが心地良かった。