第28章 正義の在処
――泣いたところできっと何も変わらない。
「君は何て可愛らしいんだろう! その屈辱に塗れた表情が愛おしくて仕方ないよ!」
「見て、コレ。義兄が3年前、私に持たせていた真実の一部。」
「真実の一部?」
「まだ完全じゃないわ。きっとあの人は、私の知らない事実をまだ知ってるの。」
「シビュラの完全神話を崩す真実――、か。」
「――慎也はこの世界にシビュラは必要だと思う?」
「分からない。無くなれば世界は崩壊するんだろう。この国の人間は自分で決める事に慣れていない。余りにも判断を他者に委ねすぎた。」
「うん。でも行き過ぎた統治は完全で無くなればいずれ滅びるわ。」
「そうだな。少なくともお前の義兄はそれを望んでいるんだろう。」
その言葉に、泉は慎也の肩に自分の頭を預けた。
「――許してあげて、なんて言わない。だけど――。あの人はこの世界にある意味、最も疎まれたのかも知れない。」
「同情は出来ない。でも――、もしそうだとしたらアイツの希望はお前なんだろうな。」
それは何となく感じていた事だった。
いつだって槙島は泉を傷付けようとはしなかった。
自分が捕まった時だって泉を気遣わなければ自分を殺せたはずなのに。
あの男はそれをしなかったから。
「――希望って何なのかしら。」
それは絶望を知っているからこその言葉だった。3年前のあの日、泉は佐々山を助けられなかった。
「少なくとも俺の希望はお前だ、泉。お前がいるから生きたいと思うし、絶対死んでなんてやるものかと思うよ。」
嗚呼――、どうしてこの人は。自分の欲しい言葉をくれるのだろう。
泉は泣き顔を見られたくなくて、顔を伏せたままにする。
その意味を知ってか知らずか、慎也は頭を優しく撫でた。
「――俺達の子供には寂しい思いはさせないようにしよう。俺は毎日定時で帰れる仕事に就くし、お前は専業主婦になれ。」
「ふふ。――そしたらシビュラはやっぱり無くなって貰わないと、その夢は叶わないかもね。」
その言葉に、慎也は否定も肯定もしなかった。――ただ哀しそうに笑っていた。