第28章 正義の在処
――嗚呼また、少しずつこの手から失って行く。
「貴方と同じ存在でありたかったのに、僕らの気まぐれな創造主は本当に残酷なんです。」
昔、男は言ったのだ。
「君が大人になったら全てを話してあげる。」と。
では大人とはいつの時点を言うのであろうか。
日向泉は思った。
10歳で子供の感情は捨てた。18歳で全てを捨てても真実を手に入れようと誓った。20歳で誰かの為に生きたいと願った。24歳で絶望を味わった。
それは全部全部、槙島聖護と言う男が関わっていた。
『ああ、人間という奴のつかの間の好意を、神の御恵み以上に追い求める浅はかさよ!人の気まぐれな顔色に希望の礎を見出そうとする者は、マストの上の酔っ払った船乗り同然、揺れ方次第でいつ奈落の水底に転げ落ちるかわかったものではない。』
まるで謳うように呟いた泉に慎也は苦笑した。
「お前の本好きは槙島譲りだと言われたが――、本当か?」
泉を抱き寄せれば、慎也は耳元で問う。
くすぐったそうに身をよじりながら泉は笑う。
「そうかも、ね。義兄は確かに、毎晩私に本を読んでくれていたもの。」
「――毎晩?」
「そう。寝かしつけるのは義兄の仕事だったから。」
「随分と甘えたな事だな。」
それは少しだけ嘲笑を含んでいて、泉は笑ってしまう。
「だって10歳だったのよ?まだ両親に甘えたい盛りだわ。」
「お前の両親は?」
「忙しくてほとんど家にいない人だった。父は大学教授で母は研究チームの責任者だった。」
「研究?」
その問いに、泉はそっと慎也の服を握る。
「当時は教えて貰えなかったけど、今なら分かるわ。両親はシビュラシステムの開発研究チームにいたのよ。」
「――じゃあ、もしかして――!」
「慎也と同じね。知りすぎたから殺されたのよ。」
「局長に?」
「――違うと思う。あの頃、局長はまだ監視官だったから。もっと上層部――、恐らくは政府の人間に。」
それだけ言うと、泉はカバンから一つのメモリースティックを取り出した。