第3章 飼育の作法
――信じたくないと、泣いたね。
「嘘だよ、と悪戯に出された舌を奪い取るみたいにキスをした。」
「金原祐治。色相判定イエローグリーン。」
「成程。それで黄緑野郎か。ここでは色相判定の結果が全員に公開されるらしいな。」
「――どうかしてる。」
「でもコイツ、最新の計測値だと色相が好転してるよぉ?」
「寧ろ濁りがピークだったのは、塩山の死の前日か。」
「――ビンゴ、ね。」
泉の言葉に、慎也は深く頷いた。
「――そんな可笑しいですよ。人を殺しておいてサイコパスが寧ろ好転するなんて――。」
朱の言葉に、泉が口を開く。
「そうでもないわよ。金原以外の職員は金原を痛めつける事でストレスを発散してるんだもの。何も不思議な事じゃないわ。」
「泉ちゃんの言う通りだな。サイマティックスキャンなんて無かった時代には別段珍しい話じゃなかったんだぜ?」
泉の言葉を引き継ぐように征陸が言えば、宜野座が声を荒げた。
「ふざけるな!またお得意の刑事の勘か!そいつはただの妄想だ!貴様のような潜在犯がただの社会のクズに過ぎないと言う証拠だ!状況証拠に基づいた憶測で行動は出来ない。俺達の任務はシビュラの判定した犯罪係数を元に社会の秩序を維持する事だ。」
「――伸元。気持ちは分かるけど言い過ぎよ。」
泉が咎めれば、宜野座は少しだけ黙り込む。
それを見ていた慎也が口を挟んだ。
「1年に3人も死人が出るような秩序を、か?ギノ!俺にやらせろ。金原が黒なのかすぐに確証を掴んで――!」
「黙れ!」
「――宜野座さん。」
言い分を聞こうとしない宜野座に、慎也はため息を吐く。
「話にならん。日向監視官。俺にやらせろ。」
「――失敗したら私の責任になるんだけど?」
「俺が失敗すると思うのか?」
その言葉に、泉が口角を上げる。
「――泉!お前まで何を考えている?!」
宜野座が声を荒げれば、泉はそれを手で制した。
「私は慎也を否定しない。それは分かって連れて来たんでしょう?」
「――チィ。」
「なら常守監視官の意見を聞いてみる?」
不意に話を振られて、朱は困ったように周りを見る。