第3章 飼育の作法
――どうして、と問うたところで何も変わらない。
「僕にはもう君を愛おしいだなんて思える気持ちがこれっぽっちも残っていないんだ。それが只管に哀しいんだ。」
朱にデータの転送を任せ、宜野座と泉は主任の元へと行く。
「こちらが施設内の全職員のサイコパスになります。定期診断の詳細値と常設スキャナによる色相判定の記録です。」
「お預かりします。」
宜野座がフロッピーを受け取るのを泉は横目で見る。
「確認して頂ければ分かる事ですが、継続的に規定値を逸脱している職員は一人もいません。殺人を疑うにしてもまず容疑者がいませんよ。」
「それはこちらのデータをシビュラシステムで分析してみるまで分かりませんわ。相応の時間が掛かります。でもそれより簡単に調べる方法があります。」
「――ほう。と言うと?」
泉の言葉に、主任の目が光る。
「ドミネーターですわ。一度全ての職員を電波暗室の外に出して頂き、こちらの機材でチェックさせて下さい。」
「しかし!それではこちらの業務に多大な支障を来たす。」
声を荒げた主任に、宜野座が口を挟む。
「――事は人命に関わる問題ですよ。」
「塩山君の一件が殺人であると言う証拠を提示して下されば、勿論当方も協力します。ですが現状あれは事故と判断するしかない。こちらの業務を阻害してまで職員の取調べを行うのであればまずは経済省を通して業務計画の変更手続きをお願いします。」
折れない主任に、慎也と泉は人知れずため息を吐いた。
「あの主任の言ってた通りだと、常に一人だけ色相チェックが悪化してるやつがいて、そいつらは例外なく後に転属処分を受けている。ところがここ一年配置換えはない。」
征陸の説明を聞いていた宜野座と泉の視線が合う。
「死亡事件が起こるようになったのも一年前ね。」
「この一年間ずっと同じ職員がイジメの対象になっているんだ。データで一目瞭然だな。他の連中はクリアカラーなのにサイコパスを濁らせてるやつが一人だけ。」
画面には一人だけ該当者がピックアップされた。