第27章 透明な影
――今日も空は青いのよ、哀しいぐらいに。
「ロミジュリ気取って愛し合うなら、君はあたしの為に自殺未遂してくれるんだね。」
「――ご存知有りませんでしたか?日向には1年だけですが息子がいたんですよ。」
「まさか――。」
「――槙島聖護は私の義兄です。」
その言葉に、雑賀は言葉を失った。
「いずれにせよその男はシニカルで歪んだユーモアの持ち主です。」
「成程――。進み過ぎた化学と政治への風刺として――。」
「そう言う男です。」
「――日向くん。君は狡噛に手を貸して、義兄を捕まえるのかね?」
「えぇ。――だってあの人は、私に止めて欲しいんですよ。」
泉はどこか遠くを見るように呟いた。
「踏み込んだ質問をさせて貰う。君は槙島と自分が似ていると思うか?」
泉の横で洗い物をしていた慎也は、雑賀の言葉に視線を鋭くする。
「――理解出来る点は有ります。槙島の過去は何も分かっていません。ただ一つ確実なのは、ヤツの人生には重大な転換点があった。自分が特異体質だと気付いた瞬間です。自分のサイコパスを自在にコントロール出来る体質。それを特権だと思う人間もいるでしょう。でも槙島は違った。ヤツが覚えたのは恐らく疎外感です。この社会でシビュラシステムに映らないと言う事はある意味、人間としてカウントされないのと同じでは?」
「仲間に入れて貰えなかった子供――、成程。案外そんな気分が槙島の原点なのかも知れないね。――日向くんはどう思う?」
急に話を振られて、泉は困ったように答えた。
「確かに――、義兄はいつも孤独だったのかも知れません。」
「とは言え、全ては推測です。本当のところは本人に聞いてみるまで分からない。」
「君は聞くつもりはない?」
「はい。」
「片づけが終わったら書斎に来なさい。面白いものを見せよう。」
そう言って去って行く雑賀の後姿を慎也は目で追う。
それに気付いた泉は笑った。
「良いわよ、ここは。行って来て。」
「でも――。」
「良いから。すぐに片付けて私も行くわ。」
「分かった。すまん。」
布巾を泉に渡せば、慎也は書斎へと向かう。
再び水を出しながら、泉は水に映った自分の顔を見た。