第27章 透明な影
――誰より綺麗な君をこの手で汚してしまいたい。
「運命感じちゃったんだ。叶わない、運命。」
「マックス・ヴェーバーの言葉を借りれば、『理想的な官僚とは憤怒も不公平も無く、更に憎しみも激情も無く、愛も熱狂も無く、ひたすら義務に従う人間の事だ』と言う。シビュラシステムはそう言う意味では理想の官僚制的行政に近いかも知れない。但しそれは公表されているシビュラの仕様が全て真実と言う前提の上での話だ。」
その言葉に、慎也は顔をあげた。
「槙島は電話で俺にシビュラの正体を知ったと言っていました。お前が命を掛けて守るようなものではないとも。」
慎也はオムレツを口に運びながら呟く。
「マックス・ヴェーバーからもう少し引用しよう。『官僚制的行政は知識によって大衆を支配する。専門知識と実務知識、そしてそれを秘密にする事で優越性を高める。』」
「槙島はその優越性を剥ぎ取ろうとしている。」
その言葉に、雑賀は頷いた。
「それは上手く行きかけた。例の暴動でこの社会はかなりの危険ラインまで脅かされた。そして厚生省から槙島に対して何らかの提案があった。」
「だがその提案を拒絶した。」
「フン。一度、録画か録音付きでその槙島と言う男と話してみたいもんだ。」
「研究の一環ですか?」
「そう言う段階じゃないな。純粋に捜査協力の為にだよ。もしこの席に槙島がいたらどんな風に参加して来ると思う?」
その問いに答えたのは、慎也ではなく泉だった。
「あの人はマックス・ヴェーバーを引用された時点で、フーコーやジェレミ・ベンサムの言葉を引用して返すわ。『システムと言うより巨大な監獄では?パノプティコン。一望監視施設の最悪の発展形。最小の人数で最大の囚人をコントロールする。』とでも言うかしら?」
「ほう?」
興味深そうに雑賀が泉を見れば、慎也が言葉を続けた。
「もしかしたらガリヴァー旅行記辺りも引用するかも知れないな。」
「ふふ。そうね。確かに好きだったわ。バルニバービの医者の話を局長にしたらしいしね。」
「――君と槙島は一体?」
理解を示す泉に、雑賀は首を傾げる。