第27章 透明な影
――君の為に世界を失っても、世界の為に君を失いたくはない。
「どうしてどうして、貴方ってそんなに年上なんですか、マイダーリン!」
「ふぁ――。」
「ん?寝てないのか?」
泉と一緒に料理を作っていた雑賀は欠伸をした慎也を目敏く見付ける。
「一晩中トレーニングしてるんですよ、あの人。」
泉が笑いながら言えば、慎也は言い訳をするように言った。
「次に槙島が何をするのか、その行動予測がなかなか上手く行かなくて。」
「やはりあの男がもう一度何かやらかすと?」
「あと5日で首都圏のセキュリティネットワークが完全復旧する。刑事課の分析官から仕入れた情報です。槙島に取ってそれが最後の花火を上げるタイムリミットになるでしょう。」
林檎を手に取れば、慎也は手持ち無沙汰の如く投げて見せた。
「珈琲が淹れてある。本物の豆だからめちゃくちゃ濃いぞ。」
「有難うございます。」
珈琲を取りに行く慎也に泉は声を掛ける。
「ねぇ、慎也。私、結婚したらこう言う生活が良いわ。自分で好きなものを作って自然に囲まれて暮らすの。」
「――そうだな。」
慎也は少し驚いたような顔をするが、すぐに嬉しそうに笑った。
少しだけ彼女が自分の元に戻って来たような気がした。
すぐにテーブルに泉と雑賀が作った料理が並ぶ。
「お前が持ち出して来た資料には目を通したよ。成程、苦戦する訳だ。」
「――雑賀先生の印象は?」
「シビュラシステム運営下に政治犯と言うのが存在するとすれば、あの男の事だろうな。テロリスト、アナーキスト、アジテーター、民衆に興味の無い自殺願望のある革命家、まぁどのみちロクなモンじゃない。ところでアナーキズムの定義とは?」
「支配と権力の否定です。ただ混乱と無秩序と言う意味ではない。」
慎也の答えに満足そうに雑賀は頷く。
「そうだ。非人間的支配システムの否定。より人間的なシステムの構築。槙島はアナーキストに近いが、彼ほど破壊を好むとなると本来の語義からだいぶ離れる。」
「非人間的な支配システム――。即ちシビュラですよね?」