第24章 水に書いた約束
――謝らないでよ、惨めになるだけだから。
「ねぇ知ってた? あたし、アンタのこと、大切に思ってたのよ。」
「お嬢ちゃんには黙ったまま行くのか?」
「今更会わせる顔が無い。」
「せめて気持ちの整理だけはつけさせてやれよ。」
「――そうだな。」
「良いの?これで?」
準備を整えた泉は、最後に慎也に問う。
「あぁ。お前こそ、良いのか?」
「嫌って言ったら考え直すの?」
「――無理だな。」
その日、監視官・日向泉と執行官・狡噛慎也は揃って姿を消した。
朱は置かれていた手紙を読みながら、涙を流す。
『すまない。俺は約束を守れなかった。誰かを守る役目を果たしたい、そう思って俺は刑事になった。だが槙島の存在が全てを変えた。あの男はこれからも、人を殺め続けるだろう。なのに法律ではヤツを裁けない。俺は刑事でいる限りあの男に手出しが出来ない。今度の一件で思い知った。法律で人は守れない。ならば法の外に出るしか無い。常守朱。アンタの生き方は間違いなく正しい。俺に裏切られたからってそこを見失ってはいけない。俺はあくまで身勝手に自分の意地を通す為だけにアンタと違う道を選んだ。これが過ちだと理解はしている。だが俺はきっと間違った道を進む事でしか、今までの自分と折り合いがつけられない。許してくれ、とは言わない。次に会う時は恐らくアンタは俺を裁く立場にいるだろう。その時は容赦なく努めを果たせ。信念に背を向けてはいけない。ほんの一時だったがアンタの元で働けて幸いだった。礼を言う。』
「――バカ。」
泣きながら手紙を握り締めた朱は、もう一枚の手紙に気付く。
『こんな事を言えた義理じゃないが、俺を裁く時はどうか泉の前でだけはやめてやってくれ。俺はもうこれ以上、泉に何も背負わせたくは無い。今回の逃亡にアイツに非は無い。全ては俺が無理やり拉致した事だ。――どうか残された泉を守ってやって欲しい。』
ぐしゃりと朱はその手紙を握り潰す。
「――分かってないわ、狡噛さん。きっと日向さんはそんな事、望んでなんかいないのに。」
あの綺麗な人は、絶対に後を追うのだろうと分かっているのに。