第24章 水に書いた約束
――全てを捨てる覚悟など、とうに出来ているのよ。
「アンタを道連れにしてあたしはこの世界から惨めったらしく消えてやるわよ。」
「泉ちゃん。――もう決めたのか?」
カランと氷の音を、泉は心地良く聞いていた。
「うん。最後まで心配ばっかり掛けてごめんね、智己さん。」
「いやそれは構わねぇよ。けど――、狡の面倒は最後まで見てやってくれよ?」
「ふふ。そうね。」
思わずその言葉に泉が笑う。
すると扉が開いて、ヘルメットを被った慎也が戻って来た。
「あァ、ヘルメットね。その手があったか。退院祝いだ。まぁ飲めよ。」
征陸がそう言えば、泉は立ち上がってグラスを取りに行く。
「お前の集めた槙島の資料、見せて貰ってるぜ。一見とっ散らかっているようでいて、きっちり整理がついてる。いざとなれば肝心な部分だけ、いつでも持ち出せる構えだな。」
「――ファイリングは泉のお陰だ。」
「成程な。泉ちゃんなら納得だ。」
その台詞に笑えば、慎也はグラスを手に取る。
「何故そこまでヤツに拘る?お前が許せないのは悪か?それとも槙島自身か?」
「どっちも違うよ、とっつぁん。今ここで諦めてもいずれ俺は、槙島聖護を見逃した自分を許せなくなる。そんなのは真っ平だ。」
「――お前らしい答えだな。だがその為に自分の女を――、泉ちゃんを巻き込むのか?」
その言葉に、横に座っていた泉が不安そうに慎也を見る。
慎也はそっとその手を握った。
「コイツの人生は俺のものだ。それに槙島は、泉に取っては切り離せない問題なんだよ。――どちらにしてもこれ以上、この場所にコイツを置いておく事も出来ない。」
「慎也――。」
「それは同感だな。局長の泉ちゃんへの執着はどう見ても変だ。俺はお前達には幸せになって欲しいんだよ。――狡。」
そう言えば、征陸はポケットから鍵を取り出す。
「警視庁時代の思い出だ。いざと言う時に備えて、セーフハウスを用意してた事がある。何かの役に立つかも知れん。」
「――とっつぁん。」
「智己さん――。有難う。」
泉が言えば、征陸は笑顔で頷く。