第24章 水に書いた約束
――君と僕の距離。
「考えるのも馬鹿らしいよ。どうせ俺は君から離れられないのに。」
「どうでも良く有りません。大切な事です。あの言葉のお陰で、私この仕事を辞めずに済みました。ねぇ、狡噛さん。これからもずっと刑事でいてくれますか?そう私に約束してくれますか?それに――、守るものあるじゃないですか。狡噛さん、日向さんの事は自分が守るんだってあんなに言ってたじゃないですか。」
訴えるように言う朱に、慎也は折れるように頷いた。
「――あぁ。」
二人の間を邪魔するようにエレベーターが閉まった。
「――さて、日向くん。君には特別捜査権を発令して置いた。」
「えぇ。先程、確認しました。」
「――槙島聖護の潜伏先に心当たりは?」
伺うような禾生に、泉は首を振る。
「残念ながら。――義兄の行動は私には読めませんわ。」
「日向くん。君はシビュラをどう思う?」
「どんな答えをお望みです?」
作り物のような笑顔を浮かべて言う泉に禾生は苦笑する。
「――やはり兄妹だな、君達は。読めないよ。――バルニバービの医者の話を知っているかね?」
「スウィフトの『ガリヴァー旅行記』でしょうか?」
「あぁ。槙島くんは我々の思想はバルニバービの医者と一緒だと揶揄した。」
「――あの人の言いそうな事ね。」
槙島を思えば、泉は笑う。
「日向泉監視官。君に改めて命じよう。槙島聖護を本局に連行しろ。邪魔をする者は排除して良い。」
「――可笑しなこと。犯罪者である槙島は生きたまま連行。その他の者は排除をしろ、と?」
「そうだ。そしてこれは君が狡噛執行官と恋仲である事を承知した上で下した命令だよ。」
その言葉に、泉は苦笑した。
「――畏まりました。」
敬礼をした泉に、禾生はドミネーターを向ける。
『犯罪係数、25。刑事課登録監視官。』
「――相変わらずだな。」
「お褒めに預かり光栄です。」
ニッコリと笑った泉に、禾生はドミネーターを下ろした。
「あの日から、君の正義はきっと揺らぐ事が無いのだろうね。」
「ご冗談を。私だって人間ですわ。現に揺らいだでは有りませんか。――3年前のあの日に。」
どこか哀しそうに呟いた泉に、禾生は頷く。