第24章 水に書いた約束
――賭けをしようか、代償は私の人生でいかが?
「殺してください。私の中の貴方を、一人残らず。一人も残さず。」
「――では聞くが、泉はどうした?何故、ここにいない?」
「それは――!」
その質問に、宜野座は答えられなかった。
「狡噛さん!」
部屋を出た慎也を朱は追い掛ける。
「全てが茶番だ。何もかも。泉宮寺豊久の事件――。あの時ギノが上にあげた報告書を見た。――こっそりと。」
「また、そんなコト――!」
呆れる朱を余所に、慎也は話を続ける。
「ドミネーターが槙島を無視した件は、影も形も無かったよ。あの文面じゃ削らされたってのが実際のところだろうな。シビュラで裁けない人間がいると言う事実そのものを上層部は潰しにかかってる。」
「――それは仕方ないと思います。」
朱の言葉に、慎也は思わず立ち止まる。
「悔しくないのか?」
「悔しいです。でも――、この間の暴動で改めて思い知りました。正義の執行も秩序の維持も、私はどっちも大切だと思います。」
「――なら、法の外側にいる人間に何をどうすれば収まりが着くと思う?」
エレベーターのボタンを押しながら、慎也は問う。
「今回ばかりは特例措置で、もう一度昔の制度に立ち戻るしかないでしょう。起訴して法廷を開いて、弁護もさせて。その上で量刑をするしかないのでは?」
「――気の遠くなる話だな。お膳立てにどれだけ時間が掛かることやら。」
「でも、他に方法なんて――。」
言い淀む朱に、慎也はハッキリと告げる。
「あっただろ。もっと手っ取り早く、誰の迷惑にもならない方法が。あの時、槙島を殺して置けば良かった。アンタが手を下すのではなく、俺が最後の止めを刺せば――。監視官のアンタに人殺しはさせられない。――が。執行官の俺には失うものなんて何も無い。そう言うチームワークなんだ。俺だって猟犬の面目躍如さ。」
「それは法の執行では有りません。ただ殺人犯が二人になるだけです。狡噛さん、いつだったか言ってましたよね?『犬では無く刑事として働きたい』って。」
「どうでも良いコト覚えてんだな。」