第24章 水に書いた約束
――嗚呼、なんて皮肉。
「憎んでいたのは、あの頃の、無知だった自分自身。」
「――何か言いたそうだね、日向くん。」
「失礼しました。でも随分とお優しいことですわね、禾生局長?」
足を組んで高らかに告げる泉はさながら全てを見下している女王のようで、禾生は少しだけ嫌な予感を感じる。
「――君には随分と計らって来たと思うが?」
「えぇ。感謝しておりますわ。ですからこうして、恩に報いているではありませんか。」
ニッコリと笑って言う泉に、禾生は喉を鳴らす。
――彼女はどこまで知っているのか。
それ以上口を挟ませないように、禾生が言葉を続ける。
「――それと!執行官の狡噛慎也。あの男は今回の任務から外し、厳重な監視下に置くように。」
「どう言う事です?」
「言ったはずだよ。槙島聖護の身の安全に最優先の配慮をしろ、と。」
「――ッッ!」
思わず宜野座は口を紡ぐが、泉は何も言わなかった。
「以上だ。宜野座くん。それと日向くんは少しこのまま借りて行くぞ。」
有無を言わせぬように、禾生は泉を乗せたまま車を動かすように命じた。
「現時点を以って、縢の追跡捜査は二係に移譲。我々一係は槙島聖護の追跡を担当する。――狡噛執行官は公安局内に残れ。唐之杜分析官と共に我々のバックアップを担当して貰う。これは局長命令だ。」
一足先に戻った宜野座達は、公安局内に集まっていた。
「――なぁ。局長命令で俺を外せなんて妙な話だと思わないか?ただでさえ足りない人員を更に削る?――有り得んだろ。何より重要なのは槙島の安全で、ヤツの再犯を阻止するのは二の次って事だ。ソイツはもう逮捕とは言わない。身柄の保護――、とでも言い直すべきだろう。上の連中は槙島を裁くつもりがない。もし仮に俺達がヤツを捕まえて来ても、局長は何か別の目的に利用しようとしている。違うか?」
煙草を燻らせながら、慎也は問う。
「何を根拠に――!」
「ヤツが俺に掛けて来た電話を聞いただろう。シビュラシステムの正体、アイツはそう言っていた。槙島は俺達でさえ知らない内幕まで辿り着いていたんだ。」
「ただのブラフだ!犯罪者の言葉を真に受けてどうする!」