第22章 鉄の腸
――求めるものはいつだって一つだったのに。
「君は酷いね。僕を縛りつける天才だ。」
「――ここから縢がどう消えるって言うんだ?!アイツはどんなにテンパっても逃げたりはしない。どんな時でも自分が生き残る計算が出来る男だ。消えたのはアイツ自身の意志じゃない。」
吐き捨てるように言う慎也に、泉はゆっくりと同意した。
「――そうね。」
地下へと続く階段を静かに見つめながら。
「今回の事件、目の付け所は流石と言う他無い。実際君のお仲間は真実に辿り着いていたよ。」
投げられた端末で、槙島は地下の様子を知る。
「シビュラシステムは所謂PDPモデル。大量のスーパーコンピューターによる並列分散処理と言う事になっている。嘘では無いが、それは実体とは程遠い。ナレッジベースの活用と推論機能の実現は、ただ従来の演算の高速化によって実現した訳では無い。それが可能だったシステムを並列化し、機械的に拡張する事で膨大な処理能力を与えただけの事だったのさ。人体の脳の活動を統合し思考力を拡張・高速化するシステムは、実はもう50年以上も前から実用化されていた。この技術を取得し慎重に運用したからこそ、我が国は目下のところ地球上で唯一の法治国家として機能出来ている。――目下、システムの構成員は247名。内、200名程が順番にセッションを組む事でこの国の全人口のサイコパスを常時監視し、判定し続ける事が可能だ。結局のところ、機械的なプログラムで判定出来るのは、精々が色相診断によるストレス計測までだ。より深遠な人間の本質を示す犯罪係数の特定には、もっと高度な思考力と判断力が要求される。それを実現し得るのが我々なんだよ。」
そこで途切れた映像を槙島は静かに見ていた。
「――お笑い種だな。人間のエゴに依存しない機械による公平な社会の運営。そう謳われていたからこそ、民衆はシビュラシステムを受け入れて来たと言うのに。その実態が人間の脳の集合体である君達による思惟的な物だったのか?」