第22章 鉄の腸
――心優しき、戦士の君。
「見てくれだけのやさしさでも、私にはこんなにもしあわせだったのですから。」
「――日向監視官。お前は――!」
「百聞は一見にしかずってね。現場に行くわ。」
「おい、待てよ!泉!」
「――どうなるんですか、これ?」
「どうにもならないんじゃないかしら?」
泉の後を追った慎也の後姿を見ながら、朱は呟いた。
「――久し振りだね、聖護。変わりないようで何よりだ。」
目を覚ました槙島は、声を掛けて来た人物に目を見開く。
「公安局局長禾生さん――、だったかな?面識は無いと思うが?」
「――ま、この3年で僕は随分と様変わりしたからね。早速だが、君に謝らねばならない事がある。以前君に借りていた本なんだが、色々と身辺がごたついたせいで紛失してしまってね。」
「ん?」
渡された本を槙島は不思議そうに受け取る。
「同じ物を探すのに苦労したよ。」
「驚いたな。君は藤間幸三郎なのか?」
「懐かしいな。あれからもう3年になるか?」
懐かしむような禾生を、槙島は観察するように見る。
「僕は君が公安の手に堕ちたと聞いて心底残念に思ったものだ。しかし――、その顔は整形?いや、違うな。体格からして別人だ。」
「全身のサイボーグ化はお友達の泉宮寺豊久も実現していたよね?だがここまで完璧な擬態化技術は民間には公開されていない。生身の人間と全く見分けが付かないだろう?君の知っている藤間幸三郎は脳だけしか残っていない。」
「――どう言う事なんだ?あれだけ世間を騒がせた連続猟奇殺人犯が公安局のトップだと?冗談にも程がある。」
酷く滑稽そうに槙島が尋ねる。
「厳密には違う。禾生壌宗は僕一人ではないし、僕もまた常に禾生壌宗と言う訳では無い。僕らの脳は簡単に交換出来るようユニット化されていてね。いつも持ち回りでこの身体を使っているんだ。ま、日頃の業務の息抜きも兼ねてね。」
「――僕ら、だと?」
「あぁ。僕はあくまで代表だ。君と旧知の間柄、と言う事でこの場を任されたに過ぎない。姿を人目に晒した事は無いけれど、僕達名前だけならそれなりに有名だよ。君だって知っているはずだ。世間では僕らの事を『シビュラシステム』と呼んでいる。」
その頃、慎也と泉はノナタワーへと来ていた。