第22章 鉄の腸
――祈りは完成する。
「愛の呪詛を君に刻もう。綺麗な白い肌の上に、ざくりざくりと。」
「――余計な話だったな。俺も浮き足立っているのかも知れない。槙島聖護をどう裁くか問題はこれからだ。コイツはドミネーターをぶっ放すより遥かに難しくて厄介な仕事だ。だが逃がす訳には行かない。ヤツが罪を犯した事は厳然たる事実だ。」
その言葉に、泉は何も答えなかった。
「槙島に関する事件の取り調べは厚生大臣が編成した特殊チームで行う。公安局は捜査権を失った。」
「はい?!」
呼び出しを受けた宜野座は局長の言葉に瞠目する。
「極めて特異なケースだ。取り調べには医療スタッフも常時同席せねばならん。情報の機密性も問題になる。」
「槙島聖護は過去を遡って様々な事件に関与していた疑いが濃厚です。事実関係を明らかにする為にも、公安局での尋問は必須です!」
「その過去の事件とやらに未解決のものがあるかね?」
「いえ――、しかし!」
「槙島は研究用の検体として処分される。――いや、処分された。逮捕した人間の事よりも君の一係は大問題を抱えているだろう?執行官が一人逃亡。未だ行方不明。」
その言葉に、宜野座が声を荒げる。
「まだ逃亡と決まった訳では!」
「シビュラシステムは既に復旧している。縢執行官が監視の網に引っ掛からないのはそれを避けて行動しているからだ。このままじゃ責任問題になるよ。」
「――それは、その――。」
やがて灰皿の上の煙草の灰が燃え落ちた。
「宜野座くん。これを君に渡しておこう。」
デスクから出されたものは、『日向泉』と書かれた警察手帳だった。
「――これは?!」
「日向監視官に復帰命令を出せ。」
「は?!しかし――!彼女は槙島と一緒にいた嫌疑があります!それに何より退職願を受け入れたのは局長ではありませんか!」
納得が行かないとばかりに声を荒げた宜野座を諭すように局長は言った。
「――落ち着きたまえ、宜野座くん。私は言ったはずだよ。彼女は本件に関して当局の嫌疑は晴れた、と。」
「――どう言う意味でしょうか?」
「やれやれ。君は思ったより頭の固い男だな。何故、私が日向監視官を3年前の事件から復帰させそして今回離職させたと思う?」
その言葉に、宜野座はハッとする。