第20章 揺りかご事件【後編】
~10年後~
「禾生局長。今日から新人が配属でしたよね?」
「あぁ。資料は見たな。全ての判定でトリプルエーを叩き出したエリート中のエリートだ。君らもうかうかしていたら追い抜かれるぞ。宜野座監視官。狡噛監視官。」
局長室に呼び出された宜野座と慎也は画面に映し出されている新人監視官に目をやる。
「――訓練でいくら成績が上位でも現場で使えるかは別では?」
慎也が興味無さそうに言えば、禾生は笑った。
「――その点は問題ない。彼女はな。」
「局長?」
禾生の言い方に宜野座は引っ掛かりを覚えるが、ノックの音にその言葉は消された。
「入りたまえ。」
「失礼します。本日付けで公安局刑事課一係に配属になりました。日向泉です。」
「待っていたよ。日向監視官。――大きくなったな。」
その言葉に、泉は少しだけ口角を上げる。
「お久し振りです、禾生監視官。――いえ、今は局長ですね。」
「あぁ。君は私が推薦状を書く必要も無かったようだ。」
「いえ。お口添え頂いたと伺っております。有難うございました。」
泉はデスクの前までくれば、ペコリと頭を下げる。
「頭を上げたまえ、日向監視官。早速で悪いが刑事課は常に人手不足なものでね。新米扱いはしていられない。すぐに現場に出て貰うぞ。」
「了解しました。」
「宜しい。こちらは君の上司に当たる。宜野座監視官と狡噛監視官だ。分からない事は二人に教えて貰うと良い。」
その言葉に、泉は二人を見る。
宜野座と慎也はその迷いの無さ過ぎる瞳に、息を呑んだ。
「初めまして。日向泉です。宜しくお願いします。」
全てはここから始まるのだった。