第19章 揺りかご事件【前編】
「――『事件を迷宮入りさせる為に、自分達の死体をバラバラにしろ』、か。息子になんて事を頼んでくれるんですか。」
誰に言うでも無く、槙島は呟く。
その瞬間、がたんと後ろで音がした。
「泉ッッ!どうして!」
慌てて映像を消そうとした槙島に、泉は強く告げる。
「消さないで!」
「――泉。子供が見るものじゃない。」
諭すように泉の側に寄るも、彼女の目は画面の中の両親を見つめていた。
「――お兄ちゃん。知ってたのね。」
それは決して聞きたくない問いだった。僅か10歳の少女は今この時点から大人になる事を選んだのだ。
「――あぁ。」
「どうして――!」
「今は君は何も知らなくて良い。――いや、知るべきじゃない。」
その言葉に、泉は強い口調で言った。
「教えて!――私には知る権利があるでしょう?!」
「――ダメだ。これは――、義兄としてのお願いだよ。泉。今は全て忘れなさい。この事は全て知らなかった事にするんだ。」
「でも――!そしたらお兄ちゃんは――!」
それ以上の言葉を紡ぐ前に、槙島はそっと泉を抱き締める。
「――約束するよ。君が大人になったら必ず真実を教えてあげる。僕が迎えに行くまで待っていられるかい?」
「おにいちゃ――!」
その瞬間、泉は首にチクッとした痛みを感じる。
そしてすぐに猛烈な眠気に襲われた。
「君は目が覚めたら全てを忘れている。良いね。――おやすみ、泉。」
優しく耳元で囁けば、槙島は泉の目を閉じさせた。
「――愛してるよ、泉。」
慈しむように呟けば、泉をベッドへと寝かせる。
そうして槙島は立ち上がった。
「――さてと。息子としての最初で最後の親孝行をしようか。」
そう呟けば、そっと泉の頭を撫でる。
「そうだな。ここは『テンペスト』から抜粋しようか。『近いうちに差し向かいでご不審を解いて差し上げよう。そうすればここでの出来事はすべてなるほどと納得なさるはずだ。それまでは心楽しく、何ごとも良いほうに解釈なさい。』」
そうして槙島聖護は姿を消した。