第5章 どうか、これが一夜の悪夢でありますように
彼はいたくご立腹だった。
「ね~ぇ、千景ってば。いい加減機嫌直さない?」
綾女はため息をつきながら言う。
「別に怒ってなどいない。」
「嘘。角、出てるじゃん。」
綾女の言葉に千景は慌てて自分の額を触る。
「う・そ。いくらなんでも自分で分かるでしょ?」
「貴様、良い度胸だ。」
ギリギリと綾女の首を締める千景に綾女はバタバタと暴れる。
「ちょ、苦しいぃぃ!何よ、千景だってあたしに黙ってどっか出掛けてたくせに!」
「その前にお前は俺と約束しなかったか?」
「う――。」
不意に力が緩んだと思えば、綾女は千景に組み敷かれていた。
「ち、かげ?」
「気に入らん。誰の匂いをつけて帰って来た?」
「匂いって――。」
思い出すのは赤い髪の彼。
確か原田左之助って言ったっけ。
「綾女――。俺の前で他の男を考えるなど良い度胸だな?」
「ちょっと!勝手に勘違いしないでよ!あたしの頭の中は千景だけだよ?あの日から!」
「――ふん。」
綾女の言葉に、千景は思わず目を丸くする。
そんな彼が愛しくて綾女は彼の頭を掻き抱く。
「やきもち?」
「調子に乗るな。」
Ep-05:どうか、これが一夜の悪夢でありますように