第4章 無意味なことはないと、自分に云い聞かせる虚無感
歌うように話す女だと思った。
Ep-04:無意味なことはないと、自分に云い聞かせる虚無感
「――それで?何か言いたい事はないのか?」
「ゴメンナサイ。わざとじゃないんです。」
道の往来で正座をする綾女の前には、浅葱色の羽織を着て額に青筋を立てている餡子に塗れた青年。
要約するとこうだ。
街に飛び出した綾女がお腹が空いたので近くのお饅頭屋でおはぎを一つ買った。
それを持って外に出た瞬間、こけた。
見事におはぎは目の前にいた青年にヒット。
そしてたまたま青年は新撰組の人間だった。
「アンタ、どんだけドジなんだよ。」
怒っているかと思いきや赤色の髪の青年はクスクスと笑いながら立ち上がる。
「おばちゃん、もう一つおはぎちょうだい。」
綾女は呆気に取られて青年を見る。
「ほらよ。これ食っとけ。」
「あ、有難う――?」
貰っても良いものか綾女は悩みつつも食べたいので手に取る。
「気にすんな。もうこけんなよ?」
そう言えば青年は去ろうとするので、綾女は慌てて声を上げた。
「あ!あたし、綾女って言うの!貴方は?」
その青年はニカッと笑った。
「綾女、な。俺は左之助!原田左之助だ。またな、綾女!」
左之助はそれだけ告げると、その姿を消した。
「はらだ――、さのすけ。」
綾女は忘れないようにその名前を呟く。
そこまで考えて辺りが真っ暗になっている事に気付く。
「ま、まずい!千景がもう帰ってるかも!」
慌てて帰るも空しく綾女は文字通り鬼と化した千景に説教をされたのは言うまでもない。