第29章 祝言の日
「――最初で最後だからな。」
「え?」
「俺が人間に愛を誓うなど。――お前が最初で最後だ。」
その言葉に、綾女は思わず泣きそうになる。
「バカモノ。泣いたら化け物になるぞ。」
「う、うるさい。千景が柄にも無いこと言うからでしょぉ?!」
「柄にも無いとはなんだ。無礼者め。」
そんなやり取りをしていれば、襖の外から声がする。
「二人とも。神主様が見えました。時間です。」
「あぁ、分かった。――さぁ、行くか。我が花嫁殿。」
「――はい。」
そっと差し出された手を綾女は取った。
Another-03:いつか耳に残るその優しい声が遠くなっても、いつか瞼の裏に浮かぶその愛しいひとが霞んでも
それは真っ青に空が晴れ渡った日だった。
一人の鬼と一人の人間の女が『永遠』を誓った日。
――誰もが彼らの幸せを願っていた。