第3章 真実を知りたくないのなら、来なくたっていいんだよ
「わ~、久しぶりの京だぁ!」
「逸れたら見付けんぞ。」
「は~い!分かってます。」
釘を指せば急ぐ足を抑えて綾女は千景の横に並んだ。
前を向いたままさりげに手を取ってくれる千景が愛しいと思う。
「ね、そ~いや千景は何の用事で来たの?」
綾女は千景を見上げながら問い掛ける。
今更そんな事を問い掛ける綾女に呆れつつも一応答えてやる。
「野暮用だ。人間のお前には関係な「――千景のばか!」――良い度胸だな。」
額に青筋を浮かべる千景に辺りの人達は道を空けるが綾女は怯まない。
「千景の用事はあたしの用事なの!人間だから関係ないとかないんだから。」
その言葉に千景はため息を吐いた。
綾女は馬鹿だ。
何故こんなことに必死になるのか。
「――悪かった。だがお前は連れて行けぬ。夕刻までには戻るから宿についたら大人しくしていろ。」
「嫌だって「言ったら柱にくくりつけておくが?」――大人しくしてま~す!」
本気を感じ取れば大人しく返事をする。
「本当に分かってるんだろうな?」
素直過ぎる綾女に千景は不安を覚えた。
やがて宿に着くと千景は露店に気を取られている綾女を引っ張って入って行く。
「いらっしゃいまし!あらぁ随分若い夫婦さんだね。」
「部屋は空いているか?」
夫婦と言われても特に否定しない千景に綾女の顔が綻ぶ。
「ちょうど一部屋ありますよ。お名前は?」
「風間だ。」
「風間様ですね、どうぞ。」
女将に案内されて部屋に着けば千景はすぐに言う。
「夕刻には戻る。大人しくしていろよ?」
「は~い!行ってらっしゃい、旦那さま!」
「――行って来る。」
否定をしない千景に綾女は満面の笑みを浮かべた。
「――行ったかな?」
窓から覗き込んで千景が出掛けた事を確認して立ち上がる。
「夕刻までに帰ればい~よね!」
綾女は街に飛び出した。
Ep-03:真実を知りたくないのなら、来なくたっていいんだよ