第28章 前を向いて歩いてきたことをどうか、肯定しないで下さい
「――オイ、綾女。寒い。朝から何なんだ?」
いたくご立腹な様子で、千景は目を覚ます。
それもそのはず。
まだ雪解けも遠い朝は酷く冷える。
そんな中、綾女と来たら朝早くから軒下を開け放って外を見ている。
当然冷気は容赦なく家の中に降り注ぐ訳で。
千景は有無を言わさず寒さで目が覚めたのだった。
「あ、おはよ。千景。見てみて、太陽が昇ったよ。」
「相変わらずお前の脳みそは良く分からん。太陽など毎日昇っているだろうが。」
諦めたように羽織を羽織って起き上がれば、綾女の隣に腰を降ろす。
それでも朝の空気は冷たく、千景は舌打ちをすれば綾女を抱き寄せた。
「――千景?」
すっかり冷えた身体を気にもせず、顔を覗きこんで来る綾女に千景は無性に腹が立った。
「何でこんなに冷えている?いつから起きていた?」
「え?夜明け前から?」
あっけらかんと答えられ、千景は大きなため息をつく。
そんな前から起きていたのかと思う反面、全く気付かなかった自分も腹立たしい。
「あのね。夢を見たの。」
「――夢だと?」
腕の中に収まったまま呟く綾女に、千景は耳を傾けてやる。
「――千鶴ちゃんと土方さんが山奥で暮らしてた。二人で空を見上げてたの。幸せそうだったよ。」
夢か現か――。
それは今の綾女には分からない。
けれどどうしても彼らも同じ太陽を拝んでいるのだと信じて疑わなかった。
「――そうか。」
綾女の心中を察したのか、千景は後ろから抱き締めたままそれだけ呟く。
その腕の暖かさに何故だか泣きそうになりながらも、綾女は千景を見る。
「ね、千景。明日も明後日も――、来年もその後も。ずっと一緒に朝日を見てね?」
「断る。毎朝こんな起こされ方はゴメンだ。」
「ケチ~!」
春はもうすぐそこだ。