第26章 知らないとでも思っていたのかい、可愛い君
儚く散る桜は、まるで夢のようだった――。
Ep-Last:知らないとでも思っていたのかい、可愛い君
「ちっかげ~、朝ですよぅ!起きて~!」
「――ウルサイ。」
低血圧な千景は寝起きがすこぶる悪い。
綾女は毎日の日課の如く、千景の布団を剥ぐ。
「はいはい、起きて!朝御飯、冷めちゃうよ~!」
「――綾女。布団を返せ。」
凄まれても物怖じしない綾女に、千景はため息をついた。
「ね、千景。」
「分かっている。北斗に朝飯をやれば良いんだろう。」
「さっすが。よろしくね?」
のっそりと起き上がりながらそう言う千景に、綾女は満足そうに笑って部屋を後にした。
その後姿を見ながら、千景は思う。
何度この朝を迎えたのだろうか――、と。
庭に出ればいつもの通り、律儀に北斗がおすわりをしていた。
「――お前も変わらんな。」
ワオン!と元気な声を聞いて、千景は『良し』と告げてやる。
ガツガツと食べ始める北斗を見ながら、千景は寒さで澄んだ空を見上げた。