第25章 まわる世界にめぐる月日と戻らぬ時の残酷さ
「――いたぞ。」
しばらく歩くと、桜の木の下に土方と千鶴の姿を見付ける。
「――あの姿。」
「羅刹の成れの果てだな。ほぼ力を使い切ったか。」
土方の黒髪は、白髪へと変化していた。
その衰弱の仕方は、誰が見ても明白だった。
「満足か、土方。鬼にでもなったつもりで戦ったのか?」
サクサク、と。
千景の上を桜の花びらが舞う。
「テメェ――。こんなところまで何の用だ。千鶴は渡さねぇぞ。」
千鶴を庇うように前に出た土方を、千景は一瞥する。
「勘違いするな。俺はあのバカ女だけで手一杯なんだ。それに――。我らはこれ以上、一族を増やすつもりはない。」
「――風間、さん?」
千景の言葉に、千鶴は疑問符を浮かべる。
「時代は流れた。我らは滅び行く種族なのだろう。――お前もまた、その男と滅びるのだな?」
土方に寄り添う千鶴に、千景はどこか哀しい笑みを浮かべた。
「はい。でも一緒に滅びたいとは思ってません。一緒に生きたいんです。」
「――羅刹の力を使いすぎた。永くはないぞ?」
土方を見て千景が言えば、遮ったのは土方本人だった。
「うるせぇよ。そんなの俺が一番分かってる。だがなぁ生きた永さじゃねぇ。どれだけ必死に生きたか、だ。俺は最期まで新撰組副長として生き様を貫いてやる。」
「――バカなヤツだ。」
言葉は皮肉めいていたが、その声音は優しかった。
「――千景。行こう。」
そっと千景の手を取れば、ようやく千鶴と目が合った。
「――綾女ちゃん。また会えたね。」
「うん。あの時は有難う。あなたにずっと御礼が言いたかったの。」
穏やかに笑う女子二人を見ながら、男達は再び向かい合った。
「成りそこないの鬼など、許す気はなかった。」
「お前に許されなくても構わねぇよ。こうするしかなかった。後悔なんてねぇからな。」
しっかりと言い切る土方に、千景は目を伏せる。
「――お前に名を授けよう。鬼としての名を――。『薄桜鬼』――。」
サァァ、と。
花びらが舞って、千景と綾女はそこから消えた。