第22章 君には笑っていて欲しい、なんていう陳腐な科白
きみをみて、ぼくをみて、わたしをみて。
Ep-22:君には笑っていて欲しい、なんていう陳腐な科白
「綾女、さん。失礼しますね。」
「――千鶴、さん。」
食事を持って入って来た千鶴を、綾女は直視出来なくて目を反らす。
「――これ食べて下さい。毒なんて入ってませんから。」
「有難う。」
お味噌汁の匂いが何故だか悲しみを誘った。
「――綾女、さん。良かったら散歩しませんか?」
「え――?」
彼女の誘いに、綾女は少し迷った後頷いた。
当てもなく屯所の庭を歩く二人には、微妙な空気が漂っていた。
「――私、鬼なんですって。」
「うん――。」
不意に千鶴から告げられた言葉に、綾女の胸はチクリと痛む。
それは自分がどんなに願っても、叶わぬ事実だから。
「私は人間だと思って生きて来て――。でも違うって言われて。どうして良いか分からなかったんです。でもここの人達は受け入れてくれたから。だから新撰組は私に取って大事な場所なんです。」
ポツリポツリと語られる事実に、綾女の心の中も楽になって行く。
――同じ、なのだ。
彼女も自分も。
なりたくてもなれなくて、もがいてる。
「――あたしは逆に鬼になりたかった。鬼になればあの人の側に入れると思ったから。」
「難しいですね、どっちも。」
苦笑混じりに彼女と笑いあう。
嗚呼――。
もっと早くこうして話せば良かったのかも知れない。