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鬼の嫁入り【薄桜鬼】

第19章 もう耐えられないと逃げ出したひとに


どれだけ泣いても泣いても、涙は枯れないのだと知った。







Ep-19:もう耐えられないと逃げ出したひとに








気付けば、どれだけ走ったのだろう。
涙は次から次へと溢れて来て、顔がカピカピになっている。
けれど、綾女は走り続けた。
宛てなどない。
だけど少しでもあの場所から離れたかった。

「はぁはぁ――。苦し――。」

走り続けたせいで呼吸が上手く出来ない。
荒い呼吸をしながら近くの壁に背をつける。

「――はっ、は。これからどうしよう――。」

辺りは真っ暗。
自分がいる場所も定かではない。
それ以前に千景のところを去った自分に、行く宛などなかった。

「――嫌だよぉ、千景――。」

思わず涙が込み上げて来れば、その場に蹲る。
すると、ジャリっと砂を踏む音がした。

「――千景?!」

淡い期待を抱いて、思わず顔を上げる。
けれどそこにいたのは、千景ではなかった。

「人間――、だ。」

一目で分かるその姿。

「羅刹――。」

千景から聞いていた鬼のなりそこない。
綾女は白髪に赤目の彼らを直視した。

――嗚呼、だから。

彼は私が鬼になる事を望まなかったのだ。
振り下ろされる刀。
轟く叫び声。
綾女は逃げるでもなく、静かに目を瞑った。

別に、いい。

あの人の側にいれないのなら、と。
覚悟を決めた、はずだったのに。
いつまで経っても、刃は降って来ない。

「――どうして。」
「それは僕のセリフだよ、綾女ちゃん。何でキミがここに?」

目の前にいたのは、沖田さん。
彼の刃は、羅刹を貫いていた。

「助けてなんて欲しくなかったのに。」
「綾女ちゃん?」

疲れが極限に達したのだと思う。
薄れ行く意識の中で、沖田さんは困ったように笑っていた。
抱きとめられた腕が温かかったのは、何故なのだろう。
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