第17章 誰かの道を正すほどできた人間じゃあないのだけれど、それでも、
「――ここに、いろ。」
「いても良いの?」
あたしは人間なのに、と。
そう言いたかった言葉は、千景の優しい口付けに呑まれてしまった。
「俺は離れる事など許していない。勝手にいなくなってみろ。地の果てまで追い掛けてやるぞ。」
「怖いね、鬼って。」
「言ってろ。」
そっと千景の背に腕を回せば、自分の背中に回された手に力が篭もった事に気付いた。
嗚呼。
お願いです、かみさま。
この手だけがあれば、あたしは生きて行けるから。
どうかこの人を取り上げないで下さい。
「――どうしたらお前のその意識は、取り除けるのだろうな。」
自分の腕の中で、泣き疲れてしまった綾女を見ながら千景は呟く。
普段はうっとうしいぐらいに付き纏うくせに。
肝心なところで酷く消極的だ。
「お前は分かってない。」
いつかこの腕から消えて行きそうで。
そんな想いを掻き消すように。
寝ている間に消えないように。
抱き寄せている事など、お前は知らないのだから。
「厄介な事だ。」
それは自分に言ったのか、綾女に言ったのか。
想いは錯誤するばかり。