第17章 誰かの道を正すほどできた人間じゃあないのだけれど、それでも、
それは予兆だった。
Ep-17:誰かの道を正すほどできた人間じゃあないのだけれど、それでも、
麗らかな午後。
千景の頭を膝に乗せて、綾女はいつものように編み物をしていた。
「――お前はいつも何を作ってる?」
不意に聞こえた声に目をやれば、いつの間にか千景の目が開かれていた。
「あ、おはよ。コレ?冬にいるかなぁと思って。靴下と腹巻!暖かいでしょ?千景のもあるよ。」
「――お前、意外に器用だよな。」
意外や意外。
綺麗な網目で編まれたものを見ながら、千景は苦笑する。
こんな穏やかに過ぎて行く時間が綾女は好きだった。
けれど。
それは永遠ではないとどこかで知っていた。
「――綾女?何を泣いてる?」
気付いたら目から涙が溢れていた。
下から涙を拭う手を感じれば、どうしようもなくなって来る。
想いだけがこみ上げて。
「――ねぇ、千景。あたしはいつまでここにいても許される?」
きっと終わりが近い事は、薄々感じていた。
けれど千景は優しいから、きっと出て行けなんて言わない。
ならば。
自分から姿を消すのがこの人の為なのではないのだろうか。
「おい、バカ女。お前、くだらん事を考えてるだろう?」
「くだらなくないもん。」
綾女の考えを察知したのか、千景の顔が険しくなる。
「いつも言うが、バカな頭で余計な事を考えるな。逆に迷惑だ。」
「な、何よぉ!」
『迷惑』と言われ、綾女は目を真っ赤にしたまま怒る。