第16章 優しい言葉は要らないよ、どうか君を憎ませて
寂しい、と。
そう言えたなら、どんなにか楽なのに。
Ep-16:優しい言葉は要らないよ、どうか君を憎ませて
「ひっま、だなぁ。」
「――おい、綾女。俺が目の前にいて暇ってどういう意味だ?」
不知火が不機嫌そうな顔で言う。
綾女は特に気にせず、ゴロゴロと寝返りを打つ。
「だ~って。し~ちゃんの話、面白くないんだもん。」
「てめぇじゃなかったらぶっ飛ばしてんぞ。」
慣れているのかため息をつきながら言う。
「う・そ。ゴメンね?千景にあたしの相手するように言われたんでしょ?」
「――まぁな。風間もお前を連れてかなかったのが、気になってたみたいだぜ?」
「気にするんなら連れてってくれたらい~のに。」
ぶすっとする綾女の頭を、不知火は撫でてやる。
「仕方ねぇだろ。聞き分けろ。」
「分かってるもん。」
千景は優しいから。
絶対に人間を傷付けるところを、自分には見せない。
「――分かってるんだよ。」
「綾女――。」
健気な女だと思う。
だいぶ頭は弱いし、変な女だが。
だけど健気だと思う。
純粋に風間の事が好きで好きで仕方ないのだから。
「お前って何でそんなに風間が好きなワケ?」
「愚問ね、し~ちゃん!千景が千景だからよ!」
起き上がってビシッと指を差す綾女に、不知火は目をしばたかせる。
「わっけわかんねぇ。」
「そろそろ帰って来るかなぁ。お味噌汁でも作ってよ~っと。し~ちゃんも食べてく?」
「――おう。」
その夜。
千景は帰って来た。
「お帰りなさ~い、お味噌汁、出来てるよ!」
「あぁ。不知火、いつまでいる気だ。早く帰れ。」
「ヒデェェ!」