第15章 初めて泣いたのは君の隣、最初で最後の涙でした
「千景、話があるの。」
「――くだらん事だったら泣かすぞ。」
正座をして言って来る綾女に、千景は嫌な予感が全身を駆け巡った。
この手の話はロクな目に遭った事がないのだ。
Ep-15:初めて泣いたのは君の隣、最初で最後の涙でした
「あたしね、鬼になろうと思う。」
「――それで?」
最早突っ込む気も失せたのか、千景は池の鯉に餌をやりながら問う。
「だからね、千景!あたしの事、噛んで!」
「アホか!それは吸血鬼の間違いだろう、バカ女!」
「――え?そうなの?」
本気だったのだろうか、この女は。
千景は心底哀れそうな目で、綾女を見る。
「――北斗。お前の主は、頭が相当可哀相な事になっているらしいぞ。」
思わず側にいた北斗に言えば、まるで同意するように鳴いたもんだから綾女としては面白くない。
「何よぉ!――だって。どうやったら千景と同じになれる?」
「――ハァ。どうせこの前、アイツに会ったから余計な事を考えたんだろう。いいか?鬼って言うのは生まれながらのものなんだ。今更どうこう出来る問題ではない。分かったらさっさと諦めろ。」
千景の言葉に、綾女は俯く。
「――だって。」
「お前の”だって”は聞き飽きた。別に鬼のお前なんか必要としていないから安心しろ。」
その言葉に、綾女の顔が輝く。
「――『人間』のあたしは必要?」
「さぁ、な。」
千景は少しだけ笑えば、縁側に座る綾女の膝に頭を乗せた。
「千景?」
「俺は寝る。次にくだらん事で起こしたら、今度こそ泣かすぞ。」
「はぁい。」
ポカポカと晴れた日の出来事。
その後、同じく居眠りをして千景の上に涎を垂らしてしまったのであった。