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鬼の嫁入り【薄桜鬼】

第11章 手を伸ばせば届きそうだったので、瞬く星の睫に


「先も言ったが、ここは人間が入れる場所ではない。我ら鬼の里だからな。」
「鬼?――あぁ、そっか。そういうコト。」

千景の言葉に特に驚いた様子もなく、綾女は自嘲気味に笑った。

「あたしはね、人身御供なの。」
「何?」

綾女の語った真実に、千景は人間の汚さを感じた。
干ばつが続いていた綾女の村では、鬼を神として祭り上げているのだと言う。
そこで神に生贄を捧げて雨乞いをしようとしたのだ。
生贄に選ばれたのは孤児であった綾女。
人身御供に選ばれたのだと知ったのは、山奥に置き去りにされてからだと言う。

「くだらん。人間とは浅はかだな。」
「本当にね。だから良かった。貴方が鬼だって言うんなら早くあたしを殺してよ。」

先程までおちゃらけていた少女とは思えない発言だった。

「馬鹿か、貴様は。鬼に生贄を捧げたところで雨が降る訳ないだろうが。」
「そんなの分かってるよ。でもあたしはもう村にも帰れないし。――これ以上、一人で生きたくないの。」
「あの犬はどうする。勝手に押し付けられたら迷惑だ。」
「それは――。」

泣きそうな綾女を見ていたら、少しチクリと胸が痛んだ気がした。
だからあんな事を言ってしまったのだろうか。
気の迷いだったのだ、きっと。

「貴様、飯は作れるか?」
「は――、え?あ、うん。一応。」
「三食作るんならここに置いてやらんでもない。」
「――え?!」

ようやく千景の意図が分かったのか、綾女の顔が輝く。

「ワンちゃんもいい?!」
「世話はお前がしろよ。」
「うん!有難う、千景!」

綾女が満面の笑みを浮かべて、千景に抱き付く。

「――重い。」
「な!失礼な!――ねぇねぇ、ワンちゃんの名前どうしよっか?」
「何でも良いだろう。」
「良くなぁい!」

犬を見ながら唸る綾女の方に目をやれば、ちょうど北斗七星が輝いていた。

「――北斗。」
「北斗?――北斗、か。いいね!よし、今日から北斗だよ!」

ワォン!と軽快な遠吠えが響いたのは、2年前の早春の出来事。






Ep-11:手を伸ばせば届きそうだったので、瞬く星の睫に
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