第16章 夜会
すげー甘い匂い....
この極上ともいえる血の香りはヴァンパイアを酔わす媚薬ともいえるだろう
無意識のうちに俺は本能のままその血を喰いたいと思った
けど....何か違う
俺が求めてんのはこいつの血じゃない
「ッ....!!」
額に少し冷たいものが触れた
意識を取り戻したように目を向けると
目を閉じたレナの姿が見えた
互いの額がぶつかる
熱を持たない俺達は温かい筈がないのにこいつの額からは少しの温もりが感じられた
「アヤトは優しいね....」
「!」
かつて聞いた懐かしい言葉を彼女は口にした
俺が優しい?
馬鹿じゃねーのか
俺はお前の血を利用しようとしてる
大切なものを守るためにならお前を傷つけても構わない
一瞬でも俺はそう思った
アヤトはレナから離れる
「意味わかんねぇ....お前はいつもそうだ。
何で、なんで....
俺達のことをそんな目で見れる....
俺はこの牙で全部を壊して、殺してきた
お前が知る以上に俺達は穢れてる」
俺達は奪う事は簡単に出来るのに
失う事には酷く敏感なんだ....
「....けど、アヤトはいつも誰かを守ってる」
「!」
「....血を吸おうとしてもどこか躊躇してた
昔からずっとアヤトも変わらない
アヤトのその目は
誰かを守ろうとしてる
そうでしょ?」
俺の心を読んだみたいに喋るこいつには何もかもお見通しなのかと思う
きっと、俺が事情を話せばこいつは自ら血を差し出すだろう
こいつはそうゆう奴だ
知ってたのにな、レナの性分なんて
けど、今の俺にはもうこの女を奪う気はない
ずっと見ないふりをしていた
誰かが言ってた
得るためにはそれ相応の代償がいる
けど、そんなの俺様には関係ない
「はっ....お前はホントに馬鹿だよな」
レナは納得のいかないような反応をかえす
ずっと見てきたこんな顔も今じゃ少し違って見える
なにか代償をはらうなんて俺らしくない
欲しいもんは全部守ってやるよ