第16章 夜会
「....チッ....」
静かな廊下に足音が響く
段を降りているのは機嫌の悪そうなアヤトだった
『殺すぞ?カナトもライトもあの人間の小娘も』
忌々しい祥匙の言葉を思い出す
祥匙なら本当にやりかねないだろう
自分の家族さえも利用し、娘を生け贄に捧げるような男だ
今の彼は大切なものを人質にとられたようなもの....
彼はその事にも酷く腹を立てていた
それに誰かの言いなりに動く自分の姿を想像するだけで嫌気が差した
それでも、完全に振り切れないでいるのは
"愛情"を知ってしまったから
母親からロクな愛を受けなかった自分が誰かをこんなに想う日が来るとは思っていなかった
だからこそこれを失うことをこんなにも恐れているのだろう
『レナお嬢様!お止め下さい!』
突然の大声にアヤトは肩をびくつかせる
声はリビングからだった
ひょこっと覗き込むと、そこにはメイドと箒を持ったレナがいた
「お願い。私にも手伝いをさせて?」
「いけません!お客様であるレナ様にそのような事....!!」
彼女は慌てたようにレナの手から箒を取る
すると、メイドは俺の気配に気付いたのか直様部屋をあとにする
流石レイジが選んだ使用人だとか思いながらアヤトはレナに声を掛ける
「なにやってんだお前」
「わっ!びっくりした
ちょっと....何かしていたくて....」
苦笑する彼女に心がざわめく
こいつは自覚が無いんだろうけど
本当に今のレナの血はやばい....
きっとまだ誰にも吸われていないのだろう
純粋で濃厚な甘く酔い潰れそうな匂いがする
「アヤト?」
ぐいっ!
少しアヤトに近づくと直様腕を取られ、部屋の壁に抑えつけられる
咄嗟の事に思考が追いつかず、足も竦む
「痛っ....!!」
アヤトは腕を強く抑えつけ
まるで、獣のように虚ろな瞳をしていた
「ッ....アヤト....」
怖かった
妖艶に牙をチラつかせる彼の瞳は私など見ていない
けれど....私は小刻みに震えるアヤトの手を振り払う事ができなかった
強い力を持っていても、その手はどこか躊躇していた
まるで、何かと葛藤しているようで....