第29章 結婚
眩い光が消え、目を開けるとそこには誰もいなかった
彼女は心を落ち着かせるように、掌に視界を落とす
「目が...みえてる...足も」
永遠に続く深い暗闇が晴れ、緑と温かい光に視界が包まれた
ずっと力が入らなかった膝から下も違和感なく動くようになっていた
彼女は立ち上がり、先程青年が持っていた薔薇を手に取る
「お父様...」
全ての記憶が重なり合う
あの夜会の日
私が気を失った後、彼はカールハインツに制裁を受けたのだろう
彼は幼い青年にしか憑依できないほどに弱っていた
今までの彼ならその数少ない魔力すら使わず、身を潜めていたに違いない
しかしその最後の力を使って、私のために...
彼女は天に祈るように顔をあげる
(お母様、ルキのお父様...
2人と過ごした時間はとても幸せで、本当の両親のように愛情深く育ててくれました。
決して2人はあんな最期を迎えるべきではなかった...
お父様は私の大切なものをたくさん、そして何度も奪いました
お兄様、そしてルキを傷つけ、娘の私のことも...
ただ、かなり時間はかかりましたが、最後の最後に彼も改心したのだと思います
私達の傷は深いですが、2度と同じことが繰り返されないよう
良い世界を作っていきます
みんな愛しています)
彼女の頬に涙が流れる
「……」
そんな彼女を遠くの茂みから見つめる者が1人
「これで全ての因果は清算された
エレナ...
これであの世でもお前に顔向けできるな
まぁこの罪深い魂の行き先は違うだろうが...
愛憎や戦争にまみれた時代の遺恨は後世にまで引き継がれる...
残酷で哀れな運命だったが...幸せになれレナ」
言葉を残し、男は音もなく姿を消す