第9章 無神兄弟
ーーーここは....どこ?
俺は物心ついた時、ひどく殺風景な廃れた街の路地に捨てられていた
だから、もちろん親の顔は知らない
そこには俺と同じ多くの孤児が居て、俺はそれを見て、何とか生ながらえようとしていた
幸いヴァンパイアのため、腹が減っても飢えて死ぬ事は無かった
ただあるのは、水を飲んでも満たされないあの渇きだけだった
どうしても我慢できない時は鼠などの血を啜っていた
もちろん、吐き出すほど不味く、飲めたものでは無かったが....
そうして足掻き、悶え、俺は何年も独りで生きていた
そんな時....俺は見た
目を赤く染め、血に飢えた魔物を....
その悪魔のような顔をした男は、隠れていた孤児を捕まえ、血を啜っていた
それは、ヴァンパイアの成れの果て....
限界を越えた飢えに苛まれたヴァンパイアは、遂にはいくら飲んでも満たされないただの獣に変わってしまう
知識もなく、何も知らなかった自分にはあれが何か全く分からなかった
ただ、その男と目が合って分かったことは....
"自分は死ぬ"
永きに渡って掴んだ自らの感がそう暗示した
逃げようとしても脚がすくみ動けない
男の手が俺に伸びる
俺は思わず目を瞑った
しかし
ーーーーグサッ!!
鋭い音と共に男の叫び声が聞こえる
「!」
目を開けると、そこには腹から血を流し倒れている男と....
「........ッ」
血に染まった刃を持ち
返り血を浴びた自分とさほど変わりないであろう歳の少年が居た
俺は力が抜け、後ろに倒れ込む
手を見ると今までにないほど手が震えていた
そして、その少年は俺に歩み寄る
俺は少し体を強ばらせた
しかし、俺は不思議とこの少年を怖いとは思わなかった
なぜなら、彼はまるで自分が刺されたように、辛い顔をしていた
そんな彼が口を開く
「....お前には希望があるか....?」
「えっ....」
"希望"
「何かを求めたり、守ったり....そんな望みをお前は持っているか?」
俺は今を生きるのに精一杯でそんな事考えたこともなかった
何故彼がそんな事を聞いてきたかは分からない
しかし、その時の彼は
まるで自分自身に問いているように虚ろな表情をしていた