第9章 無神兄弟
「その少年はね、酷く冷めた目をしてた」
コウは昔を懐かしむように淡々と言葉を放つ
私は、その話を聞いて何か心につっかえを感じる
哀しく、決して変えられない過去....
彼は一体、その時何を思っていたのだろうか....
「でもね」
コウはレナの頬を撫でる
「ルキくんは俺に大事な事を教えてくれた。
手に入れたい希望....夢っていうのかな?
そして、あの方は俺に新しい居場所と....」
コウの目が再び宝石のように赤く染まる
彼は私の目を愛おしそうに見つめる
「この目をくれた」
あの方?
その人が誰かは私には分からないが
コウくんは私の目に映る、自らの目を見つめていた
それほど彼はそれを大切に思い、感謝しているのだろう
「だから、俺は今もこうやって永い生を生きてる」
ヴァンパイアにとって終わる事の無い生は退屈であり、死とは悲しみではなく幸福だと云われている
しかし、彼は希望を持ち足掻き、悶え、生き抜いていた
この屋敷の者は、普通のヴァンパイアとは違う....
苦しみを知ったから、哀れみを理解しているからコウくんは....
「!」
自分の頬に何かが伝っていくのが分かった
コウは驚いた様にレナを見る
「なんで....泣いてるの?」
私の目からは流れるように涙が溢れていた
「....ッ....ごめんなさい....」
「なんで、君が謝るの....
俺の方がごめん。強く握りすぎたね」
コウは彼女の涙の理由を理解出来ず、腕を離す
そして、コウはその意味を知るために彼女の心を覗き見る
「!」
彼は初めて感じるこのざわめきに動揺した
鳥肌に近い、驚きが彼の心を掴んだ
「コウ....くん?」
彼は私の目を驚きの眼差しで見つめる
「....きれいだ
こんな透き通ったの....見たことない」
淡々と呟くコウに私は意味を理解出来ないでいた
彼女の心の中は、怒りも憎しみも浄化するような純粋で真っ白だった
彼女の言葉に嘘はない
そして、コウは確信する
この子は....俺達と同じだーーーー