第26章 分かち合い
”声”が聞こえた気がした
ーーーー”一体、貴方は何を望んでいるの?”
『ルキ様』
使い魔がリムジンの扉を開ける
「あぁ...」
車から降りると、目の前には、いつも通りの無神家の外観が現れる
ルキは重い足取りのまま、屋敷に入る
「?」
すると、ルキはある異変に気づいた
いつも煩くしている兄弟達の姿が見られない
それどころか...
バンッ!!
ルキは急いで、レナが居るはずの部屋の扉を開く
「居ない...」
そこには彼女の姿は無く、車椅子も見当たらない
彼女の匂いや気配を探してみても、屋敷からは全く感じられなかった
ルキの頭には悪い不安が錯綜する
まさか...記憶が混乱して...
以前、彼女が逆巻の家から飛び出したのを思い出す
ルキが色々な可能性を考えていると、ふと外から薔薇の香りが広がってくる
「ッ...」
心を惑わすような花の香りに気づき、ルキはハッとするように心を落ち着かせた
そういえば、庭の薔薇が満開だったな...
そして花の匂いに紛れて
甘く、愛おしい彼女の香りが漂ってきた
庭に出ると、薔薇のアーチは花弁で染まり
その真ん中には、車椅子を押すコウと薔薇の花を持つレナの姿が見えた
冷静さを欠いた自分に思わず苦笑する
遠くに見える彼女は薔薇の香りを嗅ぐように鼻を寄せ、優しく微笑んだ
その姿は、まるで誰かを待つお姫様のようで...
ルキは
自分は届かない姫に憧れる騎士のようなものだと思った
彼女に触れたい...傍に居たい...
いつもそれは何かによって邪魔をされる
ルキの瞳は今にも涙が零れそうなほど、揺らいでいた
すると、遠くに見える彼女がこっちに気づいたように振り返る
ポタッ...
彼女の持っていた薔薇が下に落ちる
『ルキ?』