第6章 応報
「知盛、それを返して!」
望美が叫ぶ。
けれど知盛は逆鱗を弄びながら笑っているだけだった。
「さて。これが手に入った以上、俺はここに用は無い。じゃあな、神子殿。」
ニヤリと笑った瞬間、知盛はそのまま海へと落ちた。
「知盛?!いや~ッッ!!」
船の上には、望美の叫び声が轟いた。
第46夜~劣化していくわたしの睫毛~
「――ッッ?!知盛、さま――?」
「どうなさいました?亜弥様?」
編み物をしていた亜弥が不意に顔をあげる。
「瑠璃、嫌な予感がするの。知盛様に何かあったんじゃ――?」
「義姉上。落ち着いて下さい。兄上は決して貴方を残していなくなったりなどしません。」
重衡が亜弥の背中を擦りながら、宥めるように言う。
「重衡様!でも――。」
「義姉上。少しお休み下さい。お顔が真っ青ですよ。」
重衡は亜弥を抱き上げると、寝所へと運ぶ。
「重衡様!おろして下さい!知盛様が――!」
バタバタと暴れる亜弥を余所に、重衡は無理やり布団の中に亜弥を下ろす。
「ご無礼をお許し下さい、義姉上。」
「え?グッッ!」
重衡は申し訳無さそうに呟けば、亜弥に手刀を食らわせた。
「しげ――、ひらさま――。」
亜弥は重衡の衣を掴みながら、意識を失った。
「手荒な真似をして、申し訳ございません。義姉上――。」
亜弥の髪を撫でながら呟けば、重衡はその場を後にする。
「瑠璃。兄上から、連絡は?」
寝所を出れば、瑠璃が控えていた。
「万事上手く行ったようでございます。知盛様は無事に逆鱗を手に入れられたとの事。」
「そうですか。では私も行きます。瑠璃、義姉上の事は頼みましたよ。」
「かしこまりました。」
しっかりと返事をする瑠璃を見届けてから、重衡は一人陣を後にした。
目指すは、壇ノ浦。
全ての歯車は知盛の手に委ねられていた。
「クク――。全て終わりにしてやるさ。」
彼の手には、二つの逆鱗が握られていた。